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「庭」2006年3月号 〜作庭者の十字路より 迷いの中でどんなに苦しくても、自分の設計施工で自分の考えを打ち出したい、その思いだけで独立した私は、縁があって地元で数件ほど、自由な設計施工の仕事がありました。迷わず私は雑木の庭造りを自信満々で始めたのです。当時私の地元には、雑木の庭などほとんどなく、盆栽的な庭か、形ばかりのガーデニング的な庭ばかりでしたので、地元の庭を自分が変えてやると意気込んでいたのです。
独立当初設計施工の雑木の庭。 心魂込めて造った庭は未熟ながらも評判は上々で、それを見た人達からまた作庭依頼を頂くことが出来ました。しかし一方で、ある地元の人が、「こんな木は山に行けばいくらでもあるよ。何で庭に植えるのか。」と尋ねてきました。こうした地元の人との話の中で、庭に対する固定観念の根強さを感じつつも、一方では庭のあり方について考えるいい機会にもなりました。私は当時から庭の役目として、自然の躍動に対する感動や、自然と共生きる中で人間本来の大切な心を育んで欲しい、いわば自然教育的な面をとても重要視しておりました。また、人の生活の中から自然が感じられなくなりつつある今日、庭の役割はますます重要になると、そう信じて疑いませんでした。 しかし、生活のスタイルや環境は人それぞれで、庭に対して求めるものもみんな違うわけです。田舎の盆栽的な庭が子供の頃からの安らぎの風景だと言う人もいることに、その時初めて気づいたのです。私には私の心落ち着く風景があるように、十人十色の心の原風景がある、いい庭造りとは庭の形ではなく、住む人それぞれの心の風景に応じた姿があるのではないか、そう思うようになりました。それからの数年間はまた新たな葛藤が続きました。顧客の心の原風景との真剣な対話です。 この時期には特に精力的に様々な造園家の庭も見て廻りました。大抵の作庭者には、「この人らしい」という庭のスタイルや雰囲気があります。しかし、当時私は年間に十件以上の設計施工をこなしながらも、造る庭のスタイルはまちまちでした。今、当時造った庭の手入れにうかがう度に、あの頃の葛藤が鮮やかに蘇ります。作庭を通して自分の心につけてきた爪あとが、そのまま庭に刻み込まれているように感じるのです。 心の模索が形を生み出す状況に応じてふさわしい庭を追求する中でも、私にとって変えることなく守り続けたものもいくつかあります。一つは庭の素材や技法に対するこだわりです。人の心の温もりを映し出す素材は年月を通して表情を変えつつも、住む人に様々な事を語りかけてくれます。 ![]() 自然素材、自然を感じる庭を 規格化され大量生産された安易な人工素材ばかりがあふれる現在、大切な命の温もりを伝える庭の役割はますます重要だと思い続けてきました。人の手の温もり、自然の流れの中で表情を変えてゆく素材は、ものを大切にする心、命を愛する心といった、人として大切なことを語りかけてくれると信じ続けています。
自然を感じることなく、社会はこれからどこに行くというのでしょう。こうしたこだわりも、言葉にすればとても陳腐なものになってしまいますが、自分の作庭を重ねる中で、その使命感だけが未熟な自分を支え続けた時期もあったと感じます。
自然を感じながらの心豊かな生活を。 先日、数年前に作庭させていただいた顧客に招かれて食事に同席した際、ご主人がこんなお話しをされました。 これが作庭前には、モミジとキンモクセイの違いも知らなかったお施主のコメントです。こうしたお話を聞く度に、自分は間違ってはいなかったと 思い、作庭の方向は更にはっきりと見えてくる気がするのです。 いい庭とは何か縁があって私は独立以来、末期癌患者の最後の家というべき、ホスピス病棟を持つ病院の庭園管理に当たってきました。千葉市内にあるこのホスピスは、広々とした田畑山林に囲まれた、恵まれた環境に立地しています。一昨年、緑の効用を重視する病院理事長の発案で、庭園内に車椅子で使用できる茶亭と日本庭園を作る事になりました。亡くなってゆく入院患者はお年寄りが多く、もう旅行にもいけない方々ですが、彼らのイメージする、いわば日本庭園的なものに対する需要が多かったのです。
著者作庭のホスピスの庭。
著者作庭のホスピスの庭。石組の庭を埋め尽くす雑木。 草庵露地の概念など、ここでは全く関係ありません。立石を多用した力強い石組とそれを埋め尽くす雑木、人為的な作者の生命を注入した石組の庭園が、自然の推移の過程で雑木林の中に埋もれながらも、かつての人の営みが風景の記憶の中に輝いて残っているような、そんなものを目指したのです。「国破れて山河あり、城春にして草木深し」の余韻です。そして茶亭は車椅子で出入りできる東屋の中、一畳余りの板の間の一隅に石炉を切り、水屋を設けただけの簡素なものです。 |
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