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「第五回国際日本庭園シンポジウムに思う」 建築資料研究社 隔月刊誌「庭」178号 シンポジウム参加に至るまで海外の日本庭園はどうあるべきか、これをテーマに今年九月、東京で開催された第五回国際日本庭園シンポジウムに参加いたしました。 私自身ここ数年来、海外からの依頼が絶えることがなく、現在も北京で二件の作庭案件を抱えております。その作庭の発端には、昨年の夏に北京市内の住宅地において私が設計施工した庭園がありました。 その庭の管理について、当時私は現地側の造園責任者に対し、この庭における手入れの意味と必要性について、熱く熱く語った思い出があります。その上でもし手入れの方法で分からないことや困ったことがあれば、いつでもメールに写真を添付して送ってくれと、何度も伝えました。 その後の状態を私はまだ見ておりませんが、現地側の話では庭園の状態は良好とのこと、そしてこの庭を見た方々からの新たな依頼へとつながり、再度北京で二件の作庭準備に至りました。作った庭が新たな仕事を呼んでくるのは日本でも海外でも全く同じことのようです。 昨年の北京での作庭、現地での過大なほどの好評価とは裏腹に、作庭した私自身としては多くの反省点が残りました。このこともまた、私にとって常のことであり、日本においても当然、反省点は後から必ず出てきます。反省点が見えなくなった時は成長の止まった時だと自分を慰め励ましつつ、日々駄作を積み重ねているのが私の日常です。 北京での昨年の反省を踏まえ、今度は思う存分更に自由な自分の庭を作ろうとの想い、そして北京のみならず国外あらゆる地で、私は何を作るべきか、何を伝えるべきか、戦うべき部分はどこなのか、こうした日々の問いかけのヒントを探すべく、今回のシンポジウムに参加した次第です。 国際シンポジウムのあり方に思う今回のシンポジウム、そこでのお話の多くは海外での事例報告と、国外の日本庭園管理に対する要請にどう対応するかという話題に終始したように思います。 「海外の日本庭園はどうあるべきか」というテーマに対して、そのあり方に対する本質的な議論が聞けなかったことは少し残念に感じました。 少々話しが大きくなりますが、今年の主要国首脳会議(G8)の最重要議題として、地球環境問題が挙げられました。 全国規模で開催される様々な国際シンポジウムがありますが、こうした場で業種あるいは事業の将来展望を考える際は概ね、現在地球が置かれている様々な問題や世界情勢を見すえた上で大局的な視点から、議題の目的を問い直すというのが本来のあり方のように思います。 人類が共通して抱える最も大きな課題には、戦争、貧困、環境といった切実な問題があります。業種や国、そして一人一人がそれぞれの立場でどんな役割を担うべきか、それを考えつつ正しい方向に発展させることが必要に思います。 私たち作庭者は緑や自然を扱っております。環境問題が人類社会存続を脅かす危急の危機となっている今日、日本庭園を受け継いできた私達が海外で何をすべきか、何を伝えるべきか、こうした部分から問い直す必要があるのでは、またこうした話こそ、国際日本庭園シンポジウムという場が最もふさわしいのではと思いました次第です。 造園家・作庭者としての意識に思う今年の五月、私の地元千葉では里山シンポジウムなるものが市民団体の主導で開催されました。このシンポジウムでは、平成十五年に施行された里山育成条例に基づく政策実行を、官民一体となってどのように実現するかが話し合われました。 大学の一講堂で行われたこのシンポジウムの参加者は千人規模にまで膨らみ、賛助団体は五十団体に及びました。里山シンポジウムに参加して私がとても残念に思ったことは、賛助団体の中に造園関係の団体が皆無であったことです。 官民が一体となって千葉の自然を守り育てようとするシンポジウムに多数の団体企業が賛同し協力しているというのに、自然の美しさを活かしながら美しい住環境を作るべき私たち造園関係者は何をしているのか、とても恥ずかしく反省させられました。 業種や専門分野を担う人たちが大局を見誤ると業界は衰退し、他業種に取って変わられてしまいます。社会的役割を常に認識し、大きな視点で自分の使命を果たす努力こそ、自分のためそして日本の庭のためにも大切なことではないかと、強く思います。 現代物理学の父、アルバート・アインシュタイン、彼は自分の理論が戦争のために応用される事を嘆き、世界平和のための活動に半生の多くを費やした話はとても有名です。彼は自分がもたらした大いなる科学の発展を、人類地球の平和共存のために役立てるべく、1920年に発足した国際連盟の一機関である知的教育委員会の会長職を務め、科学知識を世界人類のためにどのように生かすべきかという課題に尽力されました。 作庭者の端くれとして、今自分がやっていることの意味を問い直し、そのあり方を常に正しながら生きていかねばならない事を感じております。 日本人として海外で庭を作る意義について今回のシンポジウムに私は一人のトルコ人を招待いたしました。 アルメット・ベルシン氏と言う、敬虔なイスラム教徒です。 一ヶ月ほど前に彼は、故郷の町に日本庭園を作りたいということで、私のもとに相談に来てくれました。彼は日本の自然、文化、そして庭園をとても愛しております。同時に彼は現代日本の現状もよく把握しております。お会いした際、彼がなぜ故郷に日本庭園を作りたいのか、詳しく聞かせていただくことができました。彼の話をまとめるとおおよそ以下の通りです。 「私は長い間日本に住んでおります。以前にはヨーロッパにも長らく住んでおりましたが、日本の庭園は世界でも比類ないほど美しいと感じています。世界中どの国の庭園も、日本の庭ほど自然を感じさせるものはないでしょう。その理由は、日本人はとても自然を愛してきたからだと思います。また、美しい庭園や自然こそが日本人の高い環境意識を育ててきたように思います。日本の街はゴミがあまり落ちていない。私の故郷では街や川に平気でゴミを捨てる、そのため街は日本に比べて汚い。 私は故郷アマスヤの街に日本庭園を作ることで、祖国の人たちに日本人の自然観や美意識を伝えたいと思います。美しい日本庭園を見れば、故郷の人たちの環境意識が高まり、街もきれいになると思うのです。 同時に日本の庭を故郷に作る事を通して、それは必ず世界の平和に繋がります。お互いの文化を理解し尊重しあうことが平和の礎となります。今はまだ先の見えない夢ですが、いつか必ず故郷に日本庭園を作りたい、その想いを持ち続ければ必ず道ができてくると思っています。」 彼の言葉は私の心の琴線に響き渡り、心地よい感動と共に私はその場で、彼の夢の実現に向けての協力を約束しました。 まずは目的、そして尊い目的を実現することの素晴らしさ、実現の過程で得られるもの、そこに何物にも変えがたい価値があります。海外で日本庭園を作る意義、それはこんなところにもあったと感じています。トルコに庭を作ること、道筋を探すのはこれからですが、これが私とベルシン氏との、共通の希望となりました。必ず道が開ける気がします。 シンポジウム初日のウェルカムパーティは十七時半に始まりました。が、ベルシンさんは食べ物飲み物一切口にしませんでした。理由を問うと、今はイスラム教の断食期間で、1ヶ月ほど続くそうです。この期間は日の出から午後六時までは水も口にしないということでした。六時を過ぎると、彼は一気に食べ始めました。さぞお腹の空いていたことでしょう。何で断食をするのかと私は問いました。彼の答えは以下の通りでした。 「やはりそれは満足に食事も取れない貧しい人たちの気持ちを忘れないためです。何でも手に入る、いつでも食べられるというのが当たり前になると、食事もできないほどの貧しい人の気持ちが分からなくなるものです。世界の平和共存は、本質的にはあらゆる宗教共通の願いなのです。」 この話もまた、私に大きな感動をもたらしました。日本においてのイスラム社会の印象、最近その多くは、戦争やテロ、宗派争いのイメージが強いのではないでしょうか。しかし、そのイメージは非常に偏った一方的なものであることに気付かされました。 この話を聞いた時、私の身近な庭園関係者が、以前私に話してくれたことを思い出しました。 「私達が海外で庭を作る際、計画から設計、それから施工期間の数倍をその対話に割かねばならないでしょう。この対話を欠かさずに作るから、庭作りは平和産業なのです。」 今回ほど私は、自分が海外作庭に関わることができるということの幸せを実感したことはありません。 海外で何を伝えるべきか最終日のワークショップでは、多くの庭師方々や若き作庭志者たちが共に汗を流して、作品作りに取り組んでおりました。中でも庭園協会埼玉県支部が中心となって作成したインスタレーション、二股を組んで大勢で力を合わせて石を吊り上げる姿はとても美しい光景で、久々に熱い魂を思い出させていただいた気がします。 また、東京支部の蹲踞作成では、古い新羅系石塔の笠を見立てた水鉢の美しさに長らく吸い込まれました。 私はベルシン氏に、この水鉢を通して、日本庭園の心を説明しようと試みました。 「風化して本来の用途に耐えられなくなったものを、日本人は昔から庭の中で再生利用しようとしてきました。そこには自然を大切にする想い、ものや命を最後まで生かそうとする想い、それが日本の美の奥底にあると思います。この水鉢は素晴らしいが、こうしたものを生かして庭を作ってきた先人の心も負けずに美しいと思います。そこに私は日本人であることの誇りを感じています。庭の素材など何でもいいのです。その国その地域なりの何かを見立てて新たな命を宿すことで、本当の日本庭園が海外で作れると思っています。ベルシンさんの故郷で庭を作るときは、私はわざわざ日本から燈籠を運んだりはしませんよ。あなたの故郷にある素材を使い、現地の古い何かを見立てて庭に持ち込んで、新たな命を吹き込みましょうよ。」 こうした私の考えに対して、ベルシンさんは満足げな満面の笑みで答えてくれました。 私はこの日のワークショップに幼子を連れてきました。子供にかこつけて早く帰ろうとたくらんだのです。なぜなら、折角苦労して作られた作品がその日のうちに解体されるのを決して見たくなかったからです。勿論、ベルシンさんにも見せたくなかった。それは日本の美しい心ではないからです。 三日間にわたるインスタレーション作品、六十人以上が力をあわせて取り組んだ作品、その日のうちに解体される事を知った時、せめて一週間でもそのままにして学生たちに見せることができなかったものか、とても残念に思いました。 この時、私は自分の師匠、金綱重治氏の事を思い出しました。数年前に代々木で開催された東京ガーデニングショーに私の師匠が出展した庭のことです。期間終了後、短期間で撤去しなければならないため、折角植えた樹木を何本も伐採しなければならなかったのです。その時の事を思い出して、師匠は私に話しました。 「あの時は涙が出てきたよ。生き物をあんなふうに扱うなんて植木屋のすることじゃない。あれほど悲しくて悔しかったこともない。」 この話を聞いた時、私は鬼の目にも涙というのはまさにこのことだと思いました。 こうした師匠の存在が、日本人としての私を育ててくれたと思います。 先人が私たちに伝えてくれた美しい心こそ、庭園を通して世界に発信すべき価値あるものだと確信しております。 私にとって様々な事を考えさせられた三日間となりました。このような機会を与えてくださった方々にこころより感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
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