森つくり工法 その1;宮脇方式の植樹

森つくりの工法 その1;宮脇方式の植樹
 

 森つくりのための植樹と言えば今や、横浜国立大学名誉教授、宮脇昭氏が世界中で情熱的に実践されてきた「宮脇方式」と通称される植樹方法からお話しする必要があります。
 



(左;千葉県鴨川市。常緑広葉樹を主体とした多種混交の極相的な自然林。本来の自然状態では、人による森林への干渉を一切停止した後に、数十年から百年程度の年月をかけて極相林の様相となる)


 宮脇方式の植樹では、その土地本来の潜在的な自然植生樹種苗の超密植および多種類混植によって、なるべく早い期間に自立的に成長淘汰されてゆく極相的な自然林を再生することを目的とします。

 

 


 植樹に用いる苗は、その土地本来の極相林を構成する樹種のポット苗を、高木樹種から低木樹種まで、多種類混ぜ合わせます。
 本来の森は、様々な生き物様々な樹種同士の緩やかな有機体。そしてその土地の気候風土や微地形などの条件によって、様々な林相が生じます。植樹の際にその土地本来の自然植生に基づき樹種を選択し、そしてなるべく多くの樹種を織り交ぜて本来の樹種構成に近い形で植樹してゆくところに大きな特徴があります。


 

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 ポット苗の植樹はスコップ一つで誰にでもできます。子供も大人も、その地域の人が一体となって森を育てる実感を得ることができる宮脇方式の植樹は日本だけでなく世界中で実践されてきました。


 

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 写真は植樹後、6年目。最大樹高6m程度の樹林となります。植栽した樹木はこの段階ではまだほとんど淘汰されずに生き残り、光と空間を求めてひょろひょろと密集した再生林の様相となります。
 これがさらに時間の経過とともに木々が自然淘汰されながら、本来の森へと近づいていきます。

 1㎡あたり3~5ポットという、従来の植樹密度と比して超密植とする理由は、なるべく早い期間に林床を木陰にして雑草を抑えるのです。

 また、樹種の選択や、それぞれの樹種の割合は、その樹種の初期成長量や、その土地の極相的自然植生樹種構成などによって決めていきます。


 
宮脇方式の植樹の適正についての考察

この植樹方法の主な利点は、下記の通り、挙げられます。

1.誰にでもできるということ
2.植樹後、1~2年程度の除草作業の他、その後は管理手間を要せずに自立して生育できること
3.世界中での普遍性・汎用性が高いこと


 森は多くの生き物の命の源であり、そして生存基盤でもあります。
 世界中、様々な地域で命を育む本物の森の再生の必要性が認識される中、その地域に住む人が一丸となって皆でこうした森を育てるという、かつての日本の農山村では当たり前だった考え方が、地球の未来のため、あるいは住みよく豊かな地域の本当の意味での再生のためにとても大切になります。
 宮脇方式の森つくりは、そのノウハウを単純化して誰にでもできる形にし、同時に生態学的知見に基づいて普遍性を持たせたところにその価値があると言えるでしょう。

 宮脇方式の植樹は、人による植生の錯乱の結果、生物種構成の貧弱となってしまった場所に確実に本物に近い森を現出させるために有効な方法と考えます。
 日本でいえば都市や広大な再開発地など、周囲に森のない場所に、グリーンベルトや環境保全林などを造営する目的において、この方法は適していると考えられます。

 しかし、日本の山間部などでこの方法を用いれば、たちまちシカや野ウサギなどの野生動物による食害が目に見えており、壊滅的な被害を受ける場所がほとんどかもしれません。
 また、人によって超密植で植樹した以上、自然淘汰に任せるよりも、ある程度の段階までは間引きして木々を太く強く育てることや、林床に光を入れて、天然更新や飛来してきた他の樹種の生育条件を整える方が、森としての健全化が早いと言えます。
 また、日本の大半の地域の極相林である常緑広葉樹の落ち葉は厚く分解が遅いのに対して、落葉樹の落ち葉は分解が早く、土壌条件や、実生の生育条件が早期に改善されます。
 コナラやクヌギなどの落葉広葉樹早生樹種は暑さにも強く、根の生育も早い段階で土中深くに達して、根によって土壌深い位置からも改善されます。
 土壌環境も含めて健全で豊かな森を作るために、早生樹種の落葉広葉樹の混植は様々な面で有効と言えます。
 また、大木が枯死した際など、初期成長の早い早生樹種がそこに種として存在しなければ、森を修復する前に草に覆われ、ツルなどにやられてしまい、森の修復が遅れてしまうという面もあります。

 植樹の後、選択的間伐などの多少の管理作業ができるのであれば、極相的な樹種ばかりでなく、早生樹種も含めてその土地の二次林を構成する樹種も混ぜることも有効なケースが多いと言えるでしょう。
 人が植える限り、ある程度継続的に手を加えることで、森としての自立を見守ることも大切ですが、この方法は知識と専門性を要します。

 また、植樹ばかりが森つくりではありません。
 温暖多雨な日本では、草地も放置すれば20年で森になります。また、鳥や小動物、虫や風、海流に乗って常に種は飛来して適所で根付きます。
 こうした豊かな自然条件を活かし、種の誘導によって植樹せずとも豊かな森へと早期に導くことも可能でな上、少人数で広範囲に森を再生するには、こうしたノウハウがむしろ必要となるでしょう。

 宮脇方式は、ノウハウを単純化して汎用性を高めたところに最大の価値があります。
この方法の長短をしっかりと把握したうえで、森つくりの方法の一つとして、今後の緑化の有力な手法として取り入れることが望まれると同時に、緑化技術として、その場所において他の、より良い方法を取り入れることも必要不可欠と言えるでしょう。