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ちば環境情報センター ニュースレター 第120号(2007年7月6日発行)より

樹木剪定は何のため?

(株)高田造園設計事務所 代表取締役 高田宏臣

 無残にも見苦しく剪定された街路樹を見て、疑問を感じる人もたくさんいることと思います。わざわざ税金を浪費してまで、街を潤すはずの街路樹を見苦しく剪定することに何の意味があるのか、そういう疑問をもたれた人はきっと多いのではないでしょうか。
 そうです。皆さんの疑問はとても正しいことです。私たちの街をより美しく愛されるものとしていくためにも、何のための街路樹なのか、何のための街の緑なのか、街の緑はどうあるべきか、どうか一人でも多くの皆さんに真剣に考えていただきたいのです。
 この紙面をお借りしてこれからしばらくの間、景観つくりの立場から緑のあり方について思う存分お話させていただければと思います。

 まずはじめに、街の緑に求められる本来の役割について簡単にお話したいと思います。一言で申し上げますと街路樹や公園緑地には本来、都市環境に落ち着きと潤いをもたらすべき大切な役割があります。
 大木の下に揺れる木漏れ日や樹間を吹き抜ける風の爽やかさ、風にそよぐ木々のざわめき、樹木は無意識にも私たちの五感すべてを通して安心感と安らぎをもたらします。

大空に伸び伸びと枝を広げたケヤキの大木。
葉を茂らせる夏には大きな木陰をもたらしてくれます。 大空に伸び伸びと枝を広げたケヤキの大木。
葉を茂らせる夏には大きな木陰をもたらしてくれます。

 また、伸び伸びと枝を広げる大木は街に風格をもたらします。街の風格は長い時間をかけて育てられると同時に、土地の歴史を刻んで成長した樹木こそ、地域の大切な財産なのです。一年また一年と、気長に街の樹木を大きく育て続けることが、愛されるふるさとの街作りのためにとても大切なことなのです。

 なのになぜ、街路樹の多くが毎年同じ大きさに無理に剪定されるのでしょうか。そもそも剪定とは一体何の目的で行われるものでしょうか。

 樹形や大きさを維持するために庭木の枝を切り詰めることを剪定といいます。
 庭における剪定の必要性は何か。それは庭という限られた面積の中で様々な種類の樹木草花を共存させるために、庭全体のバランスを考えながらそれぞれの樹木の成長を抑制すること、あるいは繁茂した枝葉を透かすことによって、低木草花の生育に必要な日照を庭の下部にまで誘導するために行います。
 高度に分化された日本の剪定技術は、世界の中でも独特のものといってよいでしょう。狭い空間に自然を縮小デフォルメして繊細に構成する日本庭園独自の技術の中で、剪定技術が培われ、定着してきたのです。

剪定後の庭。必要な空間、必要な光量をそれぞれの樹木が分け合っています。それを手助けするのが本当の意味での剪定です。 剪定後の庭。必要な空間、必要な光量をそれぞれの樹木が分け合っています。それを手助けするのが本当の意味での剪定です。

 しかし剪定は本来、狭く限られた庭において必要に応じて行うものであり、樹木の管理に剪定が必ず必要というものでは決してないのです。
 まして、街を潤すという大きな目的を有する街路樹や公園樹木、集合住宅の緑地などの公共緑地においては極力剪定を避けて、可能な限り上空に大きく枝を張らせた方がよいケースが多いことに気付くと思います。また、大きな樹木がもたらす環境効果を街の潤い作りに最大限に生かすためには、人や車の通行などに支障をきたす下部の枝のみ取り払い、街の樹木を伸び伸びと大きく育てることが、風格と落ち着きと夏の木陰のある美しい街を育てるのです。また、剪定をせずに樹木を大きく伸ばせるような植栽配置を考えることも大切です。
 つまり、街の環境改善のための高木樹木については、極力剪定を避けることが大切なのです。
 なぜ、毎年折角成長した街路樹を無残に伐って街の環境を悪化させるために税金を使うのでしょうか。

 皆さんに是非とも考えてもらいたいことは、毎年決まって街路樹を同じ大きさに切り詰めるという不思議な行為は、世界中どこを探しても日本にしかないという確かな事実です。

中国江蘇省蘇州市のクスノキの街路樹。通行の邪魔になる下枝のみを取り払うことで道路や屋根に快適な木陰をもたらしています。   ロシア サンクトペテルブルグ市内のシラカバ並木。勿論剪定などせずに伸び伸びと伸びた樹木が快適な森の下の生活空間をつくります。
中国江蘇省蘇州市のクスノキの街路樹。通行の邪魔になる下枝のみを取り払うことで道路や屋根に快適な木陰をもたらしています。   ロシア サンクトペテルブルグ市内のシラカバ並木。勿論剪定などせずに伸び伸びと伸びた樹木が快適な森の下の生活空間をつくります。

 どの国でも、街の樹木は支障のない限り大きく育てることによって街の環境を更によくするということは当たり前の認識で、議論の余地などないのです。
 なまじ日本は、庭園や盆栽における剪定の歴史を有するもので、それがそのまま街の緑にまで、疑問もなく応用されてしまったということでしょうか。

 日本では、街路樹の落葉の苦情が1件あるだけで剪定が行われ、みんなの大切な公共財産が損なわれるのです。地域の緑がこのような一貫性のない管理をいまだ続けているという事実、悲しいことに日本の都市緑地の現状かもしれません。しかし、このような管理の仕方で美しい街、愛される街になるはずがない、そのことは断言したいと思います。

 私は造園を専門に仕事している立場であります。私たち造園専門家は、みんなの街を美しくするという重大な責任があると認識しています。然しながら、専門の立場でありながら美しい街作りのために何も発言してこなかった私たち造園関係者のだらしのなさが、今の公共緑地における無意味な樹木剪定を許容してしまった事を、強く反省しなければなりません。
 実際に街の緑に携わる私たちこそ、美しく愛される街作りのために、私たち造園関係者が使命と街や緑への愛情をもって、改善していかねばならないと痛感します。
 不要な街路樹剪定に税金を費やすことは無駄であり、もっと柔軟な緑地管理のあり方を考え、移行させていかねばなりません。全ては美しく、潤いのある居心地のよい街作りのためという点を忘れてはなりません。
 樹木の環境効果を肌身で認識し、そしてふるさとの街や緑を心から愛する人が積極的に発言し、緑政をリードし変えていかねばならないのです。
 街の緑は私たちのため、そしてこの地に育つすべての子供たちのための緑なのです。潤いのある緑はとても大切な心の糧となります。そして、潤いのある街は時間をかけて育てるものです。将来子供たちが大人になってふるさとを離れた時、美しいふるさとの風景を心の中の原風景として思い出してもらいたい、そう願ってやみません。


 
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