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庭園紀行

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「ロシア サンクトペテルブルグ1.都市の表情」(平成19年4月撮影)
平成19年4月、ロシアの世界遺産都市サンクトペテルブルグ市で開催される日本庭園講演会講師の依頼があり、当地を訪ねて10日あまり滞在しました。
サンクトはおろか、ロシアの地も私には初めてのことです。それどころか、欧州文化圏の旅も十年ぶりのことでした。
講演にしても庭造りにしても、他国の人たちに自国の文化を分かり易く伝えるためには、現地の風土と文化を理解することから始めねばなりません。
そのため私は講演予定日の8日前に現地入りしました。
■ モスクワの空港にて
モスクワで国内線にトランジット。澄んだ空と広大な大地にゆっくりとした時間の流れ、それがロシアの空気に触れた際の第一印象でした。
■グリボエードフ運河沿いの街並み
サンクトペテルブルグ(旧レニングラード)はネバ川の河口部、フィンランド湾に面した国防の要所の地でした。今から300年ほど前、動乱の時代を制したヒョードル大帝によって、当時沼地だったこの地にイタリアの建築技術者を集めて美しい近代都市がつくられました。以後、200年余りのロマノフ王朝時代を通して政治文化の中心都市として数々の歴史を刻んできました。
■フィンランド湾を望む
小運河の河口に立ち並ぶ旧ソ連時代のアパートにホームステイさせてもらいました。アパートの部屋からフィンランド湾が望めます。今から100年余り前の日露戦争において、このはるか沖合いの雲の下から、日本に向けてバルチック艦隊が出航したのでした。
■アレクサンドルの円柱と宮殿広場
高さ47,5mという花崗岩一石作りのこの円柱は、旧参謀本部前の宮殿広場の中心に聳えています。この円柱はナポレオン戦争勝利を記念して今から200年近く前に建てられました。当時の皇帝アレクサンドル1世をたたえるもので、アレクサンドルの円柱と呼ばれています。
■宮殿広場、旧参謀本部の中心に位置する凱旋門
宮殿広場はロシアの栄光の歴史をあたかも象徴しているようです。しかし同時にこの広場を舞台に起きた、血塗られた歴史の側面をも忘れてはなりません。日露戦争末期に起きた血の日曜日事件、そして第一次世界大戦末期のレーニンの10月革命。ロマノフ王朝の栄華の影で苦しんできた労働者たち、抑圧の歴史と権利獲得への強い意志、それがロシア革命を導いたのでした。
■エルミタージュ美術館
ロマノフ王朝時代の王宮です。1700年代後期から、エカテリーナ2世が収蔵品を集めたのがこの美術館の始まりでした。また帝政ロシア時代は欧化の時代です。収蔵品の多くはイタリアを中心にヨーロッパ全土から集められました。

■エルミタージュに向かう子供たち
美術館に限らず、オペラ、バレエなど、最高レベルの自国の文化をロシアの子供たちは無料で見学できます。国を愛する事はまず自国の文化を愛することから始まります。国の文化を子供たちにしっかりと伝えることが国民の文化意識を高め、よい意味での愛国心を育てていたのです。
 祖国の文化を理解せず祖国を愛せない大人が子供には愛国心教育などと訳の分からない事を言っている日本の行政レベルとはえらい違いです。
■エルミタージュ内部 黄金の客間
■エルミタージュ内部 華麗な天井装飾
■国立ロシア美術館
200年近く前に建てられたミハイロフ宮殿が現在、世界的に価値の高いロシア造形芸術の美術館として存在しています。
19世紀初頭のロシアに多くの名建築を生み出した建築家カルル・ロッシの設計で、残存するアンピール様式の傑作として世界有数の建築と言われます。
■ロシア美術館のイコン画
ロシア美術館には古代ロシア美術の名品が数多く収蔵されています。イコンとは、正教会に用いられた聖像画を表し、崇拝の対象とされたもので、ロシア正教会のものとしては12世紀前半からのものが収蔵されています。
遠近感を持たないイコン独特の空気は神秘的で強い美しさを放っています。イコン画製作で有名なパレフ村のイコン画家たちはやがてとても美しいロシア民話の挿絵を手がけていきました。ロシアの心とも言うべきものの一つにイコンがあります。
■レーピン作「ボルガの船曳」を鑑賞する子供たち
農民や労働者のあるがままの姿を描き、帝政ロシア崩壊の引き金とも言われるレーピンの絵画、もっとも有名な作品がこの「ボルガの船曳」でしょう。ゆっくりと鑑賞できるように正面には椅子が並んでおり、子供たちが説明を聞いていました。
数々の大理石彫刻の中でもっとも気に入ったのがこの母子像です。自信に満ちた表情で立ち上がる幼子と後ろで微笑む母の表情。世界で最も美しく最も献身的で最も神々しいもの、それが子に対する母の愛情だと改めて感じました。聖母信仰、そして日本でもかつての土偶に表現される妊婦への畏敬、そこには誕生の神秘とそれを守り続けてきた母の愛という真理があると感じます。
■バスネツォーフ作「岐路に立つ戦士」
ロシアの自然、文化、芸術に接してゆくうちに、ロシア人の精神性の奥底は日本人と共通するものがあると感じました。
自然賛美と平和への祈り、そして心の葛藤や無常観、この絵の心情は日本人にはとてもよく伝わってくるのではないでしょうか。
■ムソルグスキーオペラバレエ劇場
この劇場は帝室ミハイロフスキー劇場として1833年に創立されました。本場に来た実感がこみ上げました。
 ロシアのオペラやバレエは帝政時代初期にもたらされ、以後ロシア独自の発展を遂げました。
 文化都市サンクトペテルブルグでは世界最高峰のオペラやバレエ、オーケストラなどが連夜のように楽しむことができます。
毎年の来日公演で有名なレニングラードバレエ団はこの劇場のバレエ団です。バレエ鑑賞は初めての私でしたが、その美しさと雰囲気に魅了されました。もし、自分に娘がいたら絶対にこの劇場でバレエを見せたいと思いました。
バレエはロシアが世界に誇る最高レベルの舞台芸術です。有名な「眠れる森の美女」「白鳥の湖」「くるみ割り人形」はサンクトペテルブルグの地で誕生しました。
■学習院敷地内のプーシキンの彫像
サンクトペテルブルグの街には数々の彫像がいたるところに見られます。
これはロシア文学史上最高の詩人と称えられるプーシキンの彫像です。
プーシキンの作品のいくつかはロシアの作曲家たちによってオペラ化されています。
 37歳の若さで決闘によって命を落とした悲しい運命もまた、ロシアの人たちに愛され続ける理由の一つです。
■カザン大聖堂
市のメインストリート、ネフスキー大通りに街の象徴のように聳えるのが、ロシア正教会、カザン大聖堂です。
外部の回廊を支える114本のコリント様式の円柱が壮大な外観を見せています。イタリアのサンビエトロ大聖堂を参考に19世紀初頭に建てられました。
■スパース・ナ・グラウィ大聖堂 (血の上の救世主教会)
この聖堂は1881年、皇帝アレクサンドル2世が暗殺された現場跡に建てられました。そのため、別名「血の上の救世主教会」と言われています。内部には暗殺現場の石畳が当時のままに保存され、今も追悼者が絶えることはありません。聖堂内部の壁面や天井は美しいイコンで埋め尽くされ、恐ろしい名前の由来に関わらず、心安らぐ空気を感じました。古式の外観外壁にも数多くのイコンが見られます。
■エカテリーナ宮殿
この宮殿はヒョードル大帝の2番目の妻、そしてロシア初の女帝エカテリーナ1世に賜った土地に建てられました。長さ325mというロシアバロック建築の壮大な宮殿は内外共に贅沢の限りを尽くしていました。
■サンクトペテルブルグの歴史的建造物。
帝政時代の貴族ユスポス公爵の邸宅です。魑魅魍魎たる王朝の権力争いの渦中に生きた数奇な運命の人ラスプーチンが惨殺されたのがここです。現在は文化財として保護されつつもアパートとして利用されています。今回の仕事でお世話になった神奈川県日本ユーラシア協会のサンクト駐在員がこの一室に居住していました。
街の形、街の歴史は建物や風景と共に今も生き続けていました。街の形は街の人たちの魂そのものなのでしょう。先の大戦でドイツファシストに400日の間包囲され、ある面日本のどの都市よりも破壊され蹂躙されたこの街を、昔の通りに再生したこの国の人々の魂を、私たちは見習わねばなりません。
日本人の多くがどこかに置き忘れてきた自国の文化や自然や風土を愛する心を取り戻さねばなりません。建築も庭もそして街作りもすべて、その土地の自然と文化と歴史を無視しては愛されるものには決してならないのです。いまだ無節操な街を疑問も持たずに作り続ける意識の低さ、意志と魂を失ったまま、美しい国作りなどありえません。
■街の緑
公園や街路樹に樹木は主に落葉高木のみで、シラカバなど周囲の森に見られる自然樹木が当たり前に用いられます。また日本と違い、猿の一つ覚えのように無意味な剪定をしないせいか、樹木は伸び伸びと太り、それが街に風格と落ち着きをもたらします。しかしこのことは、本当はとても単純で当たり前のことなのです。
日本の場合、緑化樹木と自然樹木は別物と考えられがちで、緑化計画の際、その土地本来の自然植生を考慮し再現しつつ風土になじませようという発想は残念ながらほとんどないようです。
本来ならば、土地の自然を本当に愛し、同時に愛される街つくりを目指せば当然、その土地の自然植生を取り入れて風土に合った緑化を考えるはずなのです。
伸び伸びした緑で街を覆い、緑が生き生きした風格漂う美しい街を作ろうとするのが当たり前の発想のはずです。それができない日本の公共緑化、美しい街作りのために根本から変えていかねばならないと、海外の街を見るたびにいつも強く感じます。
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