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庭園紀行

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「ロシア サンクトペテルブルグ2.
                 郊外の自然と農的暮らし」(平成19年4月撮影)
■ ダーチャの夏(エレイナ女史 撮影)
サンクトペテルブルグ市郊外のダーチャです。夏は草花が咲き溢れ、最も美しい時期となります。
 ホームステイ先の家族の招待で、サンクトペテルブルグ市郊外のダーチャを訪ねました。ダーチャとは、「郊外の簡易住宅付き家庭菜園用地」と説明されています。現在1億4千万人のロシア人口のうち、8千万人程度がダーチャを所有していると言います。ロシア全世帯の8割がダーチャを所有しているとも聞きます。
 彼らの多くは普段、空気の悪い都会のアパートに居住し、週末や休暇をダーチャで過ごします。市民が豊かになった最近は若者のダーチャ離れを耳にしますが、彼らもまた結婚して子供ができると、子供のために再びダーチャに足を向けるようです。
■ 都市のアパート群
ほとんどの都市住民は普段はこうしたアパートに居住しています。
■ アパートの部屋 タチアナ家の台所
一般的な中流世帯の部屋は平均的な日本のマンションと同等の広さでした。
しかし、彼らには郊外の広い週末の家があるのです。
一般的なダーチャ用地は600u程度を一区画として、旧ソ連時代に市民に使用権を認めて分配されたのが始まりです。
一般市民が普通に所有するダーチャの始まりは、帝政崩壊後のレーニン時代にさかのぼります。最初は農業の集団化で土地を国家に奪われた農民に代償として『自留地』を与えたのですが、後に、都市農民にも600u程度の土地の使用権を与えるようになりました。ロシアの法律では国、または地方自治体は市民から要求があった場合、空き地が存在する限り土地を提供しなければならないことになっています。
■ サンクトペテルブルグ市郊外のダーチャ
ロシアの都市郊外にはダーチャ村が点在し、各自思い思いに家を自作し、土地を耕しています
この土地に彼らは簡単な家を自作し、畑を耕して自給的な週末生活を送ってきました。今でもダーチャは食料自給の中核的な存在で、一例としてロシア全体のジャガイモ生産量の9割はダーチャで自給されています。
都市郊外にはこうしたダーチャ村が点在していて、夏を中心にして週末は多くの市民が自分のダーチャで生活しています。
また、ダーチャの生活があるからこそ、彼らの強い園芸嗜好を増大させているようです。
園芸祭で草花野菜の苗を求める住民。 アパートバルコニーにて、野菜の苗を育てている様子。これらはダーチャにて植えつけられます。
普段は都会に生活しながらも、週末田舎暮らしを両立させてきたロシアの生活と身近な自然を、ダーチャの週末滞在記を通してご紹介いたします。
土曜日の夜12時、タチアナさんのダーチャに到着しました。セルフビルドの簡素な家には薪の匂いが心地よく、都会からの開放感のせいか、皆のテンション絶好調でした。さっそくロシアビールで乾杯です。
ダーチャに着くとまず、ペチカと言うロシア式の暖炉に薪をくべます。日本人に馴染み深いイギリス式の開口式の暖炉と違い、ペチカの場合、火がつくとすぐに小さな薪挿入口を閉じてしまいます。そして、炎の輻射熱で家を暖めるのではなく、なんと、レンガ壁面全体を暖めることで驚くべき暖房効率を実現していたのです。この日、数本の薪をくべただけで、次の日の夜まで、暖房効果が衰えず持続していたのには驚きました。極寒の国に関わらず、豊かな森林が今日まで残されてきた理由のひとつにペチカの優れた暖房効率があったのでした。
アンドリューシャ。6歳になるタチアナさんの孫です。大人もはしゃぐダーチャの夜は子供にとってもとても楽しい時間です。普段は都会に生活しながらこんな体験ができるロシアの子供は幸せです。
ダーチャの朝。ペチカのおかげで暖かな朝を迎えます。家は全てセルフビルド。ダーチャでは当然のことのようです。
「人生には大切なことが3つある。ひとつは子供を育てること、二つ目は家をつくること、3つ目は木を植えることだ。」とは、ロシアの昔からの格言とのことです。ダーチャに根付く生活スタイルを顕著に表している格言です。
のんびりと遅い朝食を食べながら話の弾むアンドリューシャとタチアナさん。

朝食はパンにバターにサラダに昨夜の残りのスープなど。快適なダーチャの朝は全てがおいしい。耕作時期には季節ごとの収穫物がテーブルを埋め尽くすことでしょう。
遅い朝食を終えた後は、周囲の探検に出かけました。小さな案内人は勿論アンドリューシャです。彼はタチアナさんのダーチャ周辺をくまなく知り尽くしています。
シラカバ林の中の散歩道。ダーチャ村では道は自然発生的に生まれます。どこか懐かしい、気持ちのよい道です。アンドリューシャは全ての場所を知り尽くしています。
自慢げに遊びのポイントを案内するアンドリュー。(アンドリューシャという言い回しは小さな子供に対して○○ちゃん、といった愛称であり、彼の本名はアンドリュー。)
まばらな森の中に思い思いのダーチャが点在し、楽園の様相すら感じさせてくれました。
家を作り食べ物を作り、そして子供と共にある心豊かな生活、忘れかけていた人間の原点を思い起こさせるものがあります。
散歩から戻ると女性たちはまずビールで一息です。玄関前の階段で小一時間動かずといったところです。
そして男たちは思い立ったように洗車をはじめました。埃にまみれたオンボロ車は見る見るうちに輝きだしました。
バーニャというロシア式蒸し風呂にて。いわゆるサウナです。勿論バーニャも自作です。
 たっぷりと汗をかいた体を乾燥させたシラカバの枝葉で叩くのです。これが非常に気持ちよいだけでなく、香りがなんとも言えません。そして、最後は摂氏数度という凍てつく水を頭からかぶって仕上げです。なんとも荒っぽい、しかし病み付きになりそうな、バーニャ初体験でした。
バーニャから上がり、遅い昼食はシャシリクという串肉のバーベキューです。一塊5センチはあろうかという大きな肉の串焼き。慣れない我々は2本も食べれば腹いっぱいです。シャシリクの起源は軍隊食のようです。かつてはサーベルに串刺しにした肉の塊を焚き火で焼いて食べた習慣が今に残っているようです。
昼食後の昼寝の後、盆栽に使う実生の苗や苔の採取のために再び森に入りました。
 ロシアでは「ボンサイ」は立派な外来語として定着しています。彼女たちはボンサイの故郷から日本人が来た、ラッキー、と思っているようでしたが、私は盆栽など全くの未経験です。仕方なく、化けの皮がはがれないように気をつけながらお付き合いしました。
ここで少々、サンクトペテルブルグ近郊の自然について説明いたします。主要な樹種はシラカバ、コメツガ、トウヒ、ウラジロモミ、パインといった針葉樹主体のタイガの森を構成しています。ダーチャ村近郊では薪利用のために選択的に伐採が行われていますが、林床にはトウヒなどの常緑針葉樹が次々に生えていました。
 日本では一部の山岳地域や北海道などに、タイガに近い林相が見られます。
タイガの森の林床には素晴らしい苔がいくらでもありました。これをトナカイたちが食べるのでした。
 盆栽作りのためにこれを採取しているのはエレイナさん。真剣な表情です。
そして、予想はしていたことですが、後日アパートにて、ボンサイつくりをやらされる羽目になりました。私は初めての盆栽つくりをまさかロシアでやることになるとは夢にも思っておりませんでした。日本人、しかもランドスケープデザイナーが作ったとてつもなく下手くそな盆栽を見て、エレイナさんはどう思ったか、想像に難くありません。エレイナさん、ご期待に添えずにごめんなさい。
ダーチャ村の夕暮れ。帰路に着いたのは夜の9時過ぎでした。北極圏のこの村では、4月の日没は10時過ぎです。楽しい思い出の最後をこの美しい夕日が飾ってくれました、今も大地に根ざした生活を忘れないロシア人のライフスタイルに触れ、多くの日本人が見失っている大切のものに改めて気付かされました。私は今回、日本の庭園文化と自然をロシアの人たちに紹介するために行ったのですが、多くを学ばせてもらったのはむしろ私の方でした。
 ロシアの人達がそうであるように、私たちもまた、自国の自然を大切に、大地との絆を取り戻していかねばならない、そんな想いを新たにした体験となりました。
 関係方々に心より溢れんばかりの感謝を申し上げたいと思います。
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