梶原

2014年4月16日 水曜日

講演会「かつての日本の暮らし方とロシアのダーチャに学ぶ人と自然のかかわり方」

さる4月11日(金)、高田宏臣による講演「かつての日本の暮らし方とロシアのダーチャに学ぶ人と自然のかかわり方」が、NPOシーエム会主催により月島区民館にて行なわれました。

いきなりですが、私が高田造園を知ったきっかけはそもそも、富山県砺波平野にひろがる散居村とその屋敷林「カイニョ」でした。近くの山の上から、田んぼの中に浮かぶような屋敷林が点々とある風景が忘れられず、ずっと頭にひっかかっていて調べ物を始めたとき、高田さんのブログ記事を見つけたのでした。

屋敷林は、森のないところに森の機能を持たせるためのものだったといいます。それはただの森ではなく、あくまで人々の生活に寄り添い、窓を開ければ触れられる、もっとも身近な自然としての森です。

雑木の庭は、現代の屋敷林ともいえるのではないでしょうか。
今回の講演では、かつての屋敷林、里山、鎮守の森に支えられていた人々の循環型の暮らしについて、さまざまな角度から焦点を当てるとともに、そこからさらに一歩進み、これから求められる自給的な暮らしの好例として、ロシアの菜園付き簡易住宅「ダーチャ」での暮らし方が紹介されました。

なぜ今、ダーチャなのでしょうか?
雑木の庭を求める人が多いのと同様に、「自然とともにある暮らし、自給自足の生活にぼんやりとした憧れはあるけれど、実際にどうすればいいのかわからない」という人は、このところ年齢を問わず多いと思いように感じます。そこで、平日の都市生活がベースとなっている彼らのダーチャ生活を知ることは、その一助になると思いました。何より、子どもも大人も愉しんでやっているのが非常に印象的です。

豪華な別荘とも異なり、無ければDIYで建ててやろう、作ってやろうする人が多いという逞しさ。ダーチャで作られた食糧のおかげで、ソ連末期のハイパーインフレ、食糧難の時代でもひとりの餓死者も出なかったそうです。困難な時代における最後の砦、いわばシェルターでもあったことがうかがえます。

風景の美しさは、それ自体があらかじめ美しいのではなくて、そこに共存する人々の営みや歴史を含めて、初めて見出されるのかもしれません。ひとが住まう環境をつくり、風景をつくることに関わる「造園」という立場からできること、すべきことについても考えさせられる講演でした。

以下は、講演で配布されたレジュメに、梶原のメモを加筆したものです(長文ご容赦ください!)。

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「かつての日本の暮らし方とロシアのダーチャに学ぶ人と自然のかかわり方」

I.
今、住まいの庭に求められるもの〜現代の住環境事情と新たな価値感

森林を切り開き、一斉に宅地造成する状況が全国的に進んでいるその一方、新たな価値観として、鑑賞対象としての庭から、住環境を改善するための庭を求める人々が増えている。

[鑑賞の対象から環境つくりの目的へ]
■住まいの環境を改善する
.........微気候を改善して、快適な暮らしの環境を作る
■身近な自然環境を庭に再生し、自然と共にある暮らしを
.........心身の癒し、日々の活力源、子どもの教育環境


II.
かつての日本の住環境つくり〜屋敷林から


かつての住環境の守り方として、日本各地の屋敷林の事例が挙げられる。
沖縄県備瀬集落のフクギ屋敷林による強力な防風効果、また、富山県砺波平野の散居村では「カイニョ」と呼ばれる屋敷林が生活と密接に結びついた役割を持っていたなど、その地方の特殊な気候条件に対応するための住環境つくりが欠かせなかった。

[かつての屋敷林の4つの役割]
1. 住環境を守る.........暴風、寒暖の緩和
2. 生活資材の調達......落葉肥料・燃料・建材・道具材
3. 災害の防止............土地の保全、延焼防止
4. 身近な自然............心身の健康、子どもの遊び場・学び場


III.
里山、鎮守の森の役割と、かつての共存の暮らし方


生活環境の保全、生活資材の調達、肥料・飼料の調達、水・燃料・食糧の採取先として、里山や鎮守の森も機能していた。里山を村落内で共同利用するためには、「入会(いりあい)制度」という利用権を分配するためのルールが設定されていた。鎮守の森には、森や涌水を守るために祠が置かれ祭られている。まさに生活の中心に里山や鎮守の森があり、循環型の暮らしが営まれていたのだった。

[かつての里山の6つの役割]
1. 生活環境保全.........防風、熱環境緩和、土砂災害防止、避難地として
2. 生活資材の調達......建築木材、茅などの屋根材、日用道具材など
3. 肥料・飼料............落ち葉、腐葉土
4. 水........................農業用水、生活用水、水質浄化
5. 燃料.....................暖房、炊事、風呂焚き
6. 食糧.....................キノコ、山菜、果樹、木の実、野生動物

[かつての里山の管理]
■入会制度.........村落共同体による共同利用
■入会制度の意義
・家族、集落単位の危機管理
・森林資源の持続性を維持する
・人としてのモラルを醸成する


IV. 日本の森林の現状から〜暮らしと自然環境を見直す

[里山利用の推移]
■古代〜戦前...............自給的暮らしのための利用の時代
■戦後〜1970年代......単一樹種の木材生産としての利用の時代
■1970年代〜現在......不要となって放置される時代

1950〜60年代の木材需要の増加、それにともなう価格高騰が巻き起こる。さらに1960年代の燃料革命により、主要エネルギーは薪炭から化石燃料にシフトし、かつて暮らしの中心にあった里山は、用材生産のために針葉樹で構成された人工林へ。

いま森林に期待される機能として、しばしばCO2吸収効果がうたわれるが、化石燃料の使用をゼロにしない限りは意味がない。


V. ロシアのダーチャより

■ダーチャとは.........
今も8割以上のロシア人が保有する、都市郊外の家庭菜園と簡易住宅用地。

■ダーチャでの食糧生産.........
ロシア全体の生産量のうち、ジャガイモの8割、野菜の7割、牛乳の5割、肉類の4割がダーチャで生産されている。
(2008年ロシア国家統計局の統計より)

■ダーチャ村の里山利用.........
かつての日本にも似た、持続的な利用がなされている。

■ロシア人にとってダーチャとは.........
・自給自足の場
・安全な食料、おいしい空気
・いざという時のセーフティネット
・自然とともに暮らす豊かさ(日本で雑木の庭が求められる心理と似ている)
・人間性回復の場

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2014年3月27日 木曜日

園路の洗い出し----千葉県市川市にて

こんにちは、梶原です。

このところ、雨ふりも多いですね。現場が中断することも多くもどかしくもありますが、突風が運んでくる空気の匂いの変化や、道すがら満開のコブシが告げてくれる新しい季節の訪れに、なんとなく気持ちが和らぎます。

さて、先日よりお伝えしている茨城県鹿嶋市の現場と同時進行で、春の嵐のなか、市川真間の現場が着工をむかえました。

敷地前を通っている真間山弘法寺に続く道には、この地で読まれた歌などがあちこちに掲げられており、かつての歌人や文豪がふらっと散歩でもしていそうな雰囲気です。

左は、初日の様子です。
 




うららかな陽気のなか、今日は大先輩とともに、玄関へと続く園路の洗い出しの作業です。


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左に写っているのが、文造園事務所代表の佐野文一郎さんです(以前、高田さんのブログにも登場されていましたね)。
仕事中はピリリ、休憩のときは底抜けに明るく、まるで太陽のような方。高田造園のみなが慕う兄貴分です。

右側は、佐野さんの左官道具をこっそり撮影したもの。「文」印の焼印の目立つこと。
 


































鮮やかな鏝さばきで、あっというまにアプローチが姿を現しました。
さっそく木々が影を落とし、やわらかに映えています。


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アクセントとなっているのは、深岩石や枕木、レンガのコンビネーションです。

石やレンガの際は、丁寧にブラシで洗って、文字通り「際」立たせます。
写真ではまだまだ洗いが足りていませんね。集中力が肝要です....。
 

















image1image2

さあ、ここからが洗い出したるゆえん、「洗い」の工程です。

浮き出すアクをスポンジで吸い取る、絞る、吸い取る、絞る、吸い取る、絞る.....
洗い出しはなんとも忙しい工事ですが、このとき、洗いをかけながら砂利が少しずつ顔をしてくる様は、感動的ですらあります。


夕方にさしかかる頃、このように仕上がりました。
細かい砂利が浮き立ってくると、柔らかさのなかに緊張感が宿ります。

材料やその割合いかんによって仕上がりを調整できる洗い出しは、なんだか料理の味付けにも似ているのかも?(今回の配合は企業秘密です...!)

それでは、また次回!

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2014年3月 9日 日曜日

角地の菜園とベンチ--―茨城県鹿嶋市にて

お久しぶりです、梶原です。

















茨城県鹿嶋市で進行中の現場は、道路に面した角地です。

大通りから1本入った割と細い道路なのですが、自動車もよく通り、小中学生やご近所の方々の往来が一日じゅう途絶えません。この辺りでは、人に会えば挨拶をするのが当たり前という習慣が生きていて、下校途中の小学生も毎日元気に声をかけてくれます。


角には菜園があり、お客様が野菜作りを楽しまれています。何を育てているのだろうと、通りがかる人も興味深げに立ち止まり、見ていかれます。

あの時積んでいたブロックは、その擁壁だったのでした。すでに木製のカバーが取付けられており、建物際の木柵ともマッチして、ぐっと雰囲気が引き締まりました。天板には軽く腰掛けたり、菜園の作業道具を置くこともできます。

こちらは、深岩石と太鼓丸太を用いたベンチ。ちょうど大人ふたりが腰掛けることのできるサイズです。今回は玄関前と、駐車場前に2台設置します。


座面を取付ける前の様子、駐車場側からの眺めです。
背もたれがないので、どちらの方向に向いても座れますね。玄関前でちょっとしたひと休みに、また、おしゃべりをしながら菜園の作業を眺めることもできそうです。

実のところ、現場に入る前はこの面積でベンチが2つ、というのは多いような気がしていましたが、実際にここで何日も過ごしてみると、それにも納得できます。菜園を眺めてふと立ち止まる人、お客様の愛らしいお子さんに会いにくるご近所の方々、次の町内の会合について井戸端会議をする人・・・何しろ人が自然と集まる場所で、ここはさながら私設公民館のようです。


エントランスの石もほぼ組み上がり、徐々にアプローチの形状も見えてきました。
ベンチと菜園だけでも、外からも内からも人々を受け入れる装置となりえますが、これから本格的に植栽が入り、より一層、柔らかく人々を包み込む空間に仕上がるのではないかと思うと、わくわくします。


さて、最後は予告編です。
写真右の渋いお方は、高田造園で大変お世話になっている74歳(!)の大工、川上さんです。現在、川上さんの指示のもと、古材を再利用した小屋づくりが始まっています。次のレポートをどうぞお楽しみに!

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